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東京高等裁判所 平成4年(ラ)375号 決定 1992年7月24日

抗告人

林秀昭

右代理人弁護士

清水正英

主文

一  本件抗告を棄却する。

二  抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一本件抗告の趣旨及び理由は別紙「執行抗告状」記載のとおりである。

二本件公正証書第三条、第四条は、抗告人及び林清は株式会社モリアートから受領した国有地約三〇平方メートルの売買代金のうち一八五〇万円を右三名の共同名義で株式会社協和銀行に預託し、抗告人及び林清が株式会社モリアートに対し平成四年八月末日までに右土地の所有権移転登記をしたときは、抗告人及び林清は右一八五〇万円を売買代金の一部として取得する旨を定めているものであって、抗告人及び林清の株式会社モリアートに対する金銭の一定の額の支払又はその他の代替物等の一定の数量の給付を目的とする請求(民事執行法二二条五号)が記載されているとはいえないことは明らかである。

抗告人は、「右第四条の残金九二五万円及びこれに対する損害金」を請求債権として本件債権差押命令を申し立てているが、右第四条をもって抗告人及び林清の株式会社モリアートに対する一八五〇万円の支払を目的とする請求の記載であると解することは困難である(売買代金の一部一八五〇万円は既に抗告人及び林清に支払われているのであって、第四条は、一定の条件が成就したときはこれを確定的に抗告人らが取得することを確認した条項であって、さらに抗告人らに金銭を支払うことが定められているものではない。)。

したがって、本件公正証書は、強制執行を行うことができる債務名義にはならないものといわざるをえない。

三以上のとおり、本件差押命令の申立を却下した原決定は相当であるから、本件抗告を棄却することとし、抗告費用の負担について民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 髙橋欣一 裁判官 矢崎秀一 裁判官 及川憲夫)

別紙執行抗告状

抗告の趣旨

原決定を取り消す旨の裁判を求める。

抗告の理由

1、原決定は、本件公正証書第四条について、甲らの乙に対する給付請求権が表示されていると解することはできず、同条記載の金一八五〇万円またはそれが姿をかえたものである定期預金について、これが確定的に甲らに帰属し、乙に帰属する可能性はなくなることにすぎない旨判示する。

2、しかしながら、上記の見解は、余りにも形式的、硬直的な見解であって、当事者の意思及び一般的な常識にも反するものである。

即ち、上記見解では、銀行に甲らと乙の共同名義で定期預金をした場合、銀行は、甲らと乙の届出印鑑が両方なければ解約、払戻しに応じないことが明らかであるところ、乙が第四条の事実が到来しても解約払戻しに応じない場合、甲らに確定的に権利が帰属すると言ったところで、甲らは定期預金を解約、払戻して上記金員を取得することはできないのであり、別途裁判を起こす必要が生ずることとなる。

このことは、当事者の意思に合致しないばかりではなく、第六条で甲ら及び乙は本証書記載の金銭債務を履行しないときは、直ちに強制執行に服するとして、本件債務の履行について強制執行を可能とした公証人の見解をも無視するものであり是認できない。

平成四年四月八日

上記抗告人代理人

弁護士 清水正英

東京高等裁判所 民事部 御中

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